
突然ですが、みなさんは「カラー印刷物って、何色で印刷されているか?」と聞かれたら、なんと答えますか?
この質問、印刷に携わっていない方にすると、なかなか面白い答えが返ってくることがあります。
「何千色?」とか「何万色?」といった具合に。確かに、完成したポスターやパンフレットなどを見れば、驚くほど色とりどりで、まさに“何万色”という印象を持たれても無理はありません。ですが実際のところ、印刷の世界では「基本4色」で色を作っているんです。
その4色とは──
C:シアン(Cyan)
M:マゼンタ(Magenta)
Y:イエロー(Yellow)
K:ブラック(Key plate / Black)
この4色を組み合わせることで、私たちが目にするさまざまなカラーが表現されています。これを「CMYK方式」と呼びます。印刷業界ではこの4色をベースに、無数の色を“再現”しているわけですね。
もちろん例外もあります。「特色(スポットカラー)」と呼ばれる、インクを特注して印刷する方法もあります。これは企業ロゴやブランドカラーのように、「この色でないと意味がない!」という場面で使われる特別な手法です。代表的なのはDICやPANTONE(パントン)といった色見本帳に載っているカラーです。
網点って知ってますか?
「4色で何万色も表現できるなんて不思議」と思う方も多いでしょう。そのカギとなるのが「網点(アミてん)」という技術です。
これは、インクを“濃淡”でコントロールして、目の錯覚を利用して色を表現する方法です。
例えば、シアン50%+マゼンタ50%=“中間の青紫”といった具合に、網点の大きさや重なり方によって、色味や明るさが変わってきます。肉眼ではわかりにくいですが、ルーペで印刷物を拡大して見てみると、細かなドットが規則的に並んでいるのがわかりますよ。
つまり、印刷物は「ドットの集合体」なんですね。
光の色とインクの色
ここでひとつ、混乱しやすいのが「モニターの色」と「印刷の色」の違いです。
スマホやパソコンの画面で見える色──これはRGBと呼ばれる色の三原色(光の三原色)で構成されています。
R:レッド(Red)
G:グリーン(Green)
B:ブルー(Blue)
RGBは、光を重ねていくことで色を表現します。全てを100%で混ぜると「白」になり、ゼロにすると「黒」になる。光の世界では“足し算”で色が作られているわけですね。
一方、CMYKは“引き算”の世界。インクを重ねれば重ねるほど光が吸収されていき、最終的には“黒”になります。
この違いが、印刷とデジタル表示の根本的な違いなのです。
RGBとCMYKの変換に注意!
PhotoshopやIllustratorを触ったことがある方なら「RGBモード」や「CMYKモード」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
例えば、Webサイトやスマホアプリなど“画面で見ること”を前提にしたデザインなら、RGBモードで制作します。これは画面での発色が鮮やかだから。
一方、チラシや名刺、パッケージといった“印刷するもの”を作る場合は、CMYKモードで作らなければなりません。
なぜなら、印刷機はCMYKインクで色を再現するためです。
ここでひとつ注意点があります。
RGBで作ったデータをあとからCMYKに変換すると、色がくすんでしまうことがあるんです。
RGBのほうが色域が広く、特にネオン系の蛍光色や強い緑・青はCMYKでは再現が難しい。これを知らずに、RGBのまま入稿してしまうと、印刷された仕上がりを見て「なんか色が全然違う!」というクレームにつながることも。
PhotoshopなどではRGBで写真をレタッチしたあと、印刷用にCMYK変換する、という流れが一般的ですが、その際には**「印刷でどこまで再現できるか」**を意識しておくことが大切です。
印刷現場が困るデータって?
印刷現場でよくある“困った入稿データ”があります。それが、
フルカラー印刷なのに、特色で色指定されているデータ。
たとえばIllustratorで「特色のスウォッチ」を使って色を塗っていると、見た目には問題ないのに、いざ印刷に出すと「なんでこの色だけ別版になってる?」というトラブルに発展することがあります。
特色指定をCMYKに変換すれば済む話ではありますが、
・色味が微妙に変わる可能性がある
・DTPオペレーターに余計な手間がかかる
・そもそも印刷費が上がる(特色印刷は高い)
…など、余計な問題を引き起こすリスクがあります。
DTPの現場って、進行管理・デザイナー・オペレーター・印刷会社…と、いろんな人が関わって完成するチーム作業です。
だからこそ、「ちょっとした気づかい」が、全体の流れをスムーズにしてくれるんですよね。
最後にひとこと
印刷とデジタルの「色の違い」は、DTPやデザインに関わる人にとっては基本中の基本。でも、意外と深く理解されていないことも多いです。
もしこれから印刷に関わる人や、データを作って誰かに渡す機会がある人は、
「このデータ、受け取った人が困らないかな?」と一度立ち止まって見直してみると、失敗やトラブルがグッと減ると思います。
印刷って、思ったよりも「人のやさしさ」が試される仕事かもしれませんね。